1 悪夢の発端
1) ピロリ菌駆除
以前通院していたS内科医に「胃にピロリ菌がいますね。いまのところは悪さをしていないので心配いりません」と言われた。40代で胃潰瘍や十二指腸潰瘍を経験して自然治癒したが、ピロリ菌がいると再発する確率は72%高くなるとされる。
尿素呼気試験法で二酸化炭素の量を調べていただくと、平均の二倍以上の11.6%という数値が現れ、多量のピロリ菌を飼育(?)していることがわかった。医師の指示で、ピロリ菌の除菌薬を朝夕2回14日間飲み続けた。
二週間後の尿素呼気試験法で二酸化炭素は検出されず、ピロリ菌の除菌は成功した。その夜はワンカップの日本酒を二本を購入して祝杯を挙げた。ちょっと飲みすぎだったかもしれない。
その翌日、忘れもしない平成25年6月10日の朝、腸がゴロゴロを鳴り始めて便意を感じたのでトイレへ向かった。ところが、トイレ着く前に下痢状の便が漏れ出した。翌日の朝も同じことが起き、その日から下着を汚さないための対応策が始まった。
インタ-ネットで解剖図と筋肉を調べ、排便の仕組みを必死の思いで読み漁った。肛門は不随意筋の平滑筋と自分の意志で動かせる随意筋の横紋筋という、二重構造の協調作業で排便をコントロールしていることが分かった。
便失禁有無の調査では、65歳以上の約6~8%に便失禁があり決して稀な症状ではないことが分かり、高齢者の漏出性便失禁は、加齢によって排便に関わる肛門括約筋の機能や直腸の感覚が低下し、便意を感じにくくなることが原因とされる。
内肛門括約筋は意識して収縮させることができない筋肉のため、残念ながら骨盤底筋体操など、いわゆる肛門筋肉のトレーニングで鍛えることはできない。しかも老化などで生じる内肛門括約筋の筋力低下を防ぐのは難しいとされている。
軟便傾向が強いと、症状を我慢できずに便が漏れる切迫性便失禁や、日常生活で排便した後に便失禁が起こるという場合もある。私の場合は軟便傾向が強く、毎朝1度排便して30分以内に便失禁が発生していた。
2) さまざまな対策
固形である便の排出を押さえているのは内肛門括約筋と外肛門括約筋だが、直腸から肛門へ排出される固形便を押さえているのは恥骨直腸筋である。この恥骨直腸筋が加齢で緩んでいるから、直腸から便汁が漏れ落ちるのではないだろうかと推論した。
恥骨直腸筋を鍛えることはできないか。いくら探しても解説書は見当たらない。この筋肉を鍛えるために日平均8千歩を歩くことで肛門括約筋に刺激を与え続けた。しかし、脊柱管狭窄症の症状が進むにつれ歩くことは困難になってきた。
ある日、テレビで健康番組を見ていると、女性の尿失禁を予防する体操が紹介されていた。様々な体操を見たことがあるが、説明を聞いていると恥骨直腸筋を鍛えることができるので便失禁にも効果がありそうに思えた
これまで様々な方法を試した経験から、番組の説明と異なるが最大の効果を生み出せるように改良して、令和元年5月1日から試し始めた。すると、便失禁の大きさは直径1センチ程度の円となり、便失禁がない日が月に2度ほどでてきた。
この恥骨直腸筋体操にアスリートの筋肉増強法をプラスすると、恥骨直腸筋体操は毎週の月曜日と木曜の朝というように週2回行う。恥骨直腸筋体操の回数は10回から、50回に増やすことで負荷をかけるようにした。
恥骨直腸筋体操の回数を50回に増やしても運動量は大したものではなく、疲れると言うものではない。恥骨直腸筋体操の効果は大で、これまで続けたすべての運動の相乗効果で漏れる便汁の量はしだいに減り始めた。
初期のころと比較すると漏れ出る量は10分の1にまで減少していた。しかし、便失禁はそれ以上改善せずに、毎朝排便後は下着を汚さぬ対策を講じ続けた。そして、ある日、便失禁は脊柱管狭窄症と関係があるとの情報を得た。本当だろうか。
腰部脊柱管狭窄症の解説には、下肢の痛み(坐骨神経痛など)、下肢のしびれや異常感覚(灼熱感など)、 間歇性跛行(かんけつせいはこう)、 腰痛、排尿・排便障害(頻尿、残尿、失禁など)、その他(下肢脱力・間歇性勃起・陰部のしびれなど)とあった。
3) 脊柱管狭窄症の手術
令和3年8月2日に中央区の整形外科病院で院長の診察を受けた。MRI写真を撮ると狭窄を起こしている部分へ、黄色靭帯が飛び出して色が変わっている。この状態は放置しておけませんね、余病や後遺症などの弊害が出る前に手術したほうが良いそうだ。
8月18日にPCR検査を受けて翌日陰性であることが確定した。8月23日に入院して24日の10時50分から手術。1時間で手術が終わり2時間後に麻酔から覚醒した。腰に痛みはまったく感じられないが、朝昼晩と毎日痛み止めを飲まされた。
手術の翌日からリハビリ中は毎日1kmを歩いても間欠性跛行は起きなかった。退院してから5000歩や8000歩を10年前と同様に普通の状態で歩るくことができた。しかし、少量の便失禁は続き下着を汚さないための対策を続けた。
手術後は変形性膝関節症と変形性足首関節症の症状が消え、いづれも脊柱管狭窄症に関連した症状のようだった。便失禁は完治していないが、退院してから失禁のない日が月の三分の一に増え、体が普通の状態に戻すために努力しているように感じられた。
退院後はリハビリ担当者推奨の運動を続けたが、脊柱管狭窄症を発症する前に歩き回っていたところがどうなっているか気になり、毎日1時間ほどかけて確認に歩き回った。間欠性跛行は全く感じられず、歩き回れることがうれしかった。
退院後一週間が過ぎると1日の歩行距離は平均8,000歩となり、12,000歩に達する日も出てきた。ここまで歩けるようになると、リハビリ担当者推奨の運動は必要ないと思えた。
しかし、便失禁は脊柱管狭窄症の手術で完治しなかった。漏れ出る量は減っているが、良くなっていると胸を張れる状態ではなかった。そんなある日、スーパーマーケットの売り場に並んでいる大きなシメサバを発見した。
大きなサバの半身がシメられてパックされている。値段は通常のものより高く、価格は倍もしている。産地はどこだろうと手に取って見るとなんと札幌市内で加工されていた。道産品であることがうれしくなった。