はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第31章  脳塞栓症

2018(平成30)年10月20日、新札幌アークシティホテルで開催された医療法人札幌ハートセンター主催の第11回ハートセミナーで、社会医療法人医翔会札幌白石記念病院野中雅理事長の講演から「脳塞栓症」の要約です。

1 心原性塞栓症

 1-1 心臓の血の塊が脳へ

一般的に脳血管障害とか脳血管疾患とか脳卒中とかで亡くなる方が多かったのですが、細菌はお年寄りの方が高齢化して肺炎で亡くなる方が多くなり、脳卒中で亡くなる方は第四位になりました。脳卒中は減っているのかと言いますと、グラフで見る通りさほど減ってはいないようです

今日ここにお集まりの方の多くは、自分は歳をとってからには家族の世話になりたくない、家族に迷惑を掛けたくないといったことでおいでいただいているのではないかと思います。

介護が必要になった原因は、脳卒中と呼ばれる脳血管障害の方が18.5%いらっしゃいます。認知症も介護が必要になりますが、それよりも多い比率で脳血管障害が介護を必要としていることになり、脳死卒中を予防することができるなら予防したいと考えます

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下の図は、介護が必要になった原因をグラフで表したものです。脳血管疾患(脳卒中)が18.5%と最も高率になっています。最近介護が必要なことで話題になっている認知症は15.8%ですから、脳血管疾患は恐ろしい病気と言えます。

脳血管疾患(脳卒中)を大きく分類すると、脳内で出血する怖い病気は主に下の図のようになります。脳梗塞には、血栓性脳梗塞、心原性脳梗塞、ラクナ梗塞があります。本日は脳梗塞のなかの血栓性脳梗塞についてのお話になります

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心原性塞栓症は心臓あるいは頸動脈などの太い血管でできた血栓(血の塊)が、ある日突然血液の流れに乗って脳に運ばれ、脳の血管を詰まらせてしまうものです。比較的大きい病巣ができるため症状が強いことが多く、生命が危険な場合も多くなります。

正常な心臓に血栓ができることはありませんが、心臓の機能がおとろえたり、リズムがおかしくなったりすると、血流が乱れ血栓ができることがあります。血栓ができやすい心臓の病気には、心房細動、リウマチ性心臓弁膜症、心筋梗塞、心筋症などがあります

脳の血管が、動脈硬化を起こしてもろくなっている上に高血圧が続くとさらにもろくなり、ついには破れて脳の中で出血が起こります。

脳から出血した血液は固まって塊(これを血腫といいます)になります。頭のなかで血腫が大きくなると、頭の中の圧力が高まったり、血腫がまわりの正常な脳を押したりするので脳の働きが悪くなります。

出血した場所によって症状は違いますが、片麻痺、感覚障害を伴うことが多く、重症ですと意識障害、さらには死亡につながることもあります。

脳は頭蓋骨に守られていますが、骨の下にはくも膜というクモの巣のように透明な薄い膜があり、その内側に脳があります。脳に血液を送る血管はくも膜の下を走っています。この血管に動脈瘤(こぶ)や動脈硬化があると、血圧が高くなったときに急に破れます。出血した血液は、くも膜と脳のすき間に拡がっていきますが、これがくも膜下出血です。

何の前触れもなく突然猛烈な頭痛、吐き気、嘔吐が起こり、そのまま意識不明になることが多い疾患です。出血が軽い場合、意識は回復しますが、出血量が多いときや、血液が脳内に流れ込んだ場合には死に至ることもあります。

1度出血した動脈瘤は、短時間の内に再出血することが多いため、入院しての絶対安静が必要です。高血圧と関連なく、脳動脈瘤が存在することもあります。

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 1-2 日本人に多い脳卒中

脳卒中は日本人に大変多い病気で、日本人の死亡原因の第一位であった時代が長く続いていました。現在も減ったとはいえ、毎年約10万9千人、全死亡の8.4%の方が脳卒中で亡くなっています。

死亡原因としてはかなり減ったものの、逆に脳卒中を発症する患者数は増加傾向にあります。現在、日本全国に約118万人の患者さんがいるといわれています。

脳卒中の患者さんの増加は、社会の高齢化が進みつつある日本においては大きな問題です。脳卒中の後遺症が原因で身体に障害をかかえる方々が増えつつあり、要介護の原因のトップの約16.6%を占めています。

脳卒中は何の前触れもないか、というとそうではありません。中には警告発作が生じているものもあります。その警告発作が「一過性脳虚血発作」と言われるものです。前触れの症状としては、舌がもつれた感じ、言いたいことが言えない、片側の手足がしびれるなどの症状があります

症状が軽く一時的なことが多いためそのまま放置しがちですが、再び脳の血管を詰まらせる可能性は高く、このような症状がでたら大きい発作を起こす前に医療機関で受診すべきです。必ず医師に相談しましょう。

高血圧と関係のある心臓病には、心肥大、心不全、狭心症、心筋梗塞などがあります。高血圧の状態が長く続くと、全身に血流を送り出す心臓はより強い力が必要となり、心臓の壁が厚くなるという心肥大が起こってきます。心肥大が進展すると、心機能の低下や心不全につながります。

高血圧が続くと心臓に養分と酸素を送り込む冠動脈の動脈硬化が生じるため、血管が狭くなったり、詰まったりして、狭心症や心筋梗塞が起こりやすくなります

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高血圧によって血管に負担がかかり続けると、血管の壁が傷つき、その壁のなかにコレステロールがたまっていくのが動脈硬化です。動脈硬化が進むと血管の壁が厚くなり、血液の通り道が狭くなります。このようにして血液の流れが悪くなると、心臓の筋肉に必要な酸素や栄養がいきわたりにくくなります。

脳梗塞とは、何らかの原因で血管が閉塞し、その灌流域の脳細胞が死滅します。その原因は三つに分類されます。

1) 脳の太い血管が動脈硬化により細くなり詰まる・・・アテローム血栓性脳梗塞と
   いいます。

2) 心臓や太い血管にできた血栓が脳動脈に流れ込み、血管を塞ぎます・・・脳塞栓
   症といいます。

3) 脳の細い血管が動脈硬化を起こして血管が詰ま・・・・ラクナ梗塞といいます。

脳塞栓症には、心臓に原因がある場合は心原性脳塞栓症と、血管胃原因がある場合は血管原性脳塞栓症の二種類があります。心臓の中に何かの原因で血の塊ができます。この血栓が心臓の中にいる間は問題ないのですが、心臓は動いているので血の塊りは血管内に押し出されます。血液の三分の一が脳へ行きますので、大きな血も固まりが頭の方へ行くことが問題なのです。

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 1-3 警告サインの狭心症

動脈硬化が生じて血管が狭くなったり、詰まったりすると、心臓が激しい胸痛や圧迫感などの警告サインを出します。これが狭心症です。狭心症は上記の血管の狭窄によって起こるものの他に、冠動脈の一時的な痙攣によって起こるものもあります。

狭心症は2つのタイプに分けられます。1つは「からだを動かしているときに発作(胸痛や圧迫感)が起こる」もので、労作性狭心症と呼びます。もう1つは「寝ているときや、静かにしているときに発作(胸痛や圧迫感)が起こる」もので、安静時狭心症といいます。

労作性狭心症は動脈硬化で冠動脈が狭くなり、運動時などに心臓の筋肉が酸素不足になることが原因とされています。安静時狭心症は、冠動脈の強い痙攣によって起こることが原因とされ、特に夜間から早朝にかけて多いのが特徴です。

ただし、労作性狭心症と安静時狭心症ははっきり分かれるものではなく、労作時でも安静時でも発作が起こる人も多くいて、そのタイプは労作兼安静時狭心症と呼ばれます。

心臓に血液を送っている冠動脈が、動脈硬化などで狭くなったり、血栓が詰まったりして、完全に血管がふさがり血液が通らなくなると、その先にある心臓の細胞は死んでしまいます。これが心筋梗塞です。

心臓の筋肉で細胞の死んでしまったところは働きが悪くなりますから、心臓のポンプ機能がおとろえ、心不全に陥ることがあります。心筋梗塞では不整脈や心臓破裂などの合併症が起こると、死に至る危険があります。

狭心症は、心臓への血液の供給が一時的に減ることによって起こり、心筋は死なずに回復できます。一方、心筋梗塞は、血液の流れが比較的長く途絶えることによって、心筋細胞が死んでしまい、回復しないのが特徴です。

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2 実際の症例

 2-1 MRIの普及

1980年代後半、北海道内にMRIが導入されたことが契機になり、それまではCTで診断してきましたが、MRIは超急性期の脳梗塞が診断可能になったことや血管撮影以外で血管が見えるようになったことに加え、任意の方向から断面像を作ることができ、脳外科の画像診断の水準が大きく向上しました。

手術では、以前は開頭手術で術中に到達した部位がどこか、正確に把握することはできなかったのですが、現在は車で使われているナビゲーション技術を応用し、術前のMRI画像で術中に到達位置が確認できるようになりました。また電気刺激などを使い、術中に手足の麻痺がないかを確認できるようになり、手術の安全性が向上しました。

さらに脳腫瘍やてんかんの手術では、開頭手術の間に患者さんを覚醒させて患者さんと会話を交わすことで、言語野などに支障がないかを調べるなど覚醒下手術も普及してきていて、機能がどこまで残っているのかをリアルタイムに確認することができるようになったのです。

昔は腫瘍を取り除く際、全摘出を最優先にしていたわけですが、今は悪性腫瘍であっても、これらモニタリングを駆使して手術での後遺症を最小限にとどめ、患者さんの良好なADLを確保して、あとは化学療法や放射線療法のような補助療法で治療するというように、治療計画が変わってきています。

脳外科にかかわる治療法の中で一番大きく変わったのが、脳血管内治療ではないかと思います。脳卒中を起こす血管の病気では、昔から頭を開けて治療する開頭術が行われてきましたが、脳動脈瘤をコイルで詰める、頚動脈が細くなっているところにステントを留置するといった、“切らないで治療する”血管内治療が広く普及してきました。

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脳梗塞、とくに脳塞栓症の場合にはかつては内科的な治療しかなかったんですが、後遺症が残ったり亡くなるケースもありました。最近ではカテーテルで血栓を回収し、うまくいけば元通りになれるという画期的な治療法が生まれたのです。しかし血栓を回収する場合にはできるだけ早く治療を開始しなければなりません。

当院では、救急車で搬送されてから30分程度で血管撮影室に運んで、60分以内には血栓を回収できるところまできています。以前は血管撮影室まで60分、回収まで90分と時間がかかっていましたが、院内体制を整えて無駄な検査を省くことでこのように短縮することができました。

コイル塞栓術は動脈瘤の治療として単独あるいはバルーンなどの補助的なデバイスを併用して治療成績を上げてきました。最近ではステントを併用することで従来コイル塞栓術が苦手としていた症例でもコイル塞栓術が行われるようになっています。

破裂脳動脈瘤の場合、開頭で4~5時間かかりましたが、カテーテルで行うと1時間弱で終わります。また最新の話題としては、コイルを使わずに「フローダイバーター」という網の目が細かい特殊なステントを留置することで脳動脈瘤を治療する方法が注目されています。

従来コイルとステントを一緒に使う方法でも治療できなかった入り口の広い大型の動脈瘤でも、この方法だと治療できるメリットがあります。今まで開頭による大がかりな手術が必要だった症例でも、ステント1本で治療できます。当院でも今年9月から「フローダイバーター」による動脈瘤治療を実施しています。

現在札幌医大の再生医療講座で、骨髄から採取した幹細胞による脳梗塞の治療と脊髄損傷の治療の治験が行われています。特にこれまで脊髄損傷は治すことができないということが常識となっていただけに、車椅子を余儀なくされる患者さんを救う画期的な治療として期待されています。

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 2-2 79歳女性の場合

病歴  2014年某日 独居であったため朝訪問したヘルパーが、左片麻痺をきたし
    て倒れているのを発見し、当院へ救急移送した。

入院時  JCS=3、失語症(以前より)、左片麻痺(2/5)

既往症  脳塞栓症により左前脳梗塞、心房細動
       その後、ワルファリンが処方されていた。

入院時血液検査所見  RBC=362、Hb=10.7、Ht=33.8、
           TT=65.9、APTT=24.1、PTーINR=1.27

以前に脳梗塞を起こして心臓に不整脈があり、心房細動があるということでワルファリンを飲んでいたのですが、どうもこのワルファリンが効いていなかったのです。入院時の上段の写真は脳梗塞を見る写真ですが、点線で囲った部分の血管が明確に分かりません。右上の写真で右側に古い脳梗塞の痕跡が写り、左側は薄くボンヤリしています

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下段の写真3枚はMRIの断層写真で、脳の左側が白くなり新しい脳梗塞を起こしていることが分かります

入院の翌日撮影したMRIの写真を見ると、赤の点線で囲った部分の血管が写っています。右上の写真でも、左側の状態は昨日よりもはっきり見えています

下段のMRIの写真を見ると、昨日よりも白い部分がはっきり写り、この中に黒い部分ができています。これは脳が傷んだところへまた血液が流れ込んでしまった出血の跡なのです。痛んだ脳へ再び血液が流れ込むと出血してしまい、逆に状態が悪くなります

これらのことから、心臓の不整脈(心臓細動など)や心筋梗塞では、心臓内に血栓(血の塊)ができやすのです。この血栓が心臓からはがれて脳血管へ流れ込むと大きな脳梗塞になり、重症の場合は死亡することもあります。突然症状がでると→卒中です。

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来院された患者さんのご家族にどのような状態で起こりましたかと質問すると、突然起きましたとか何時何分に起きましたと明確に答えられる場合にはこのパターンが多いのです

もし、脳梗塞になったら、できるだけ早く血栓改修療法を行い、血流を再開させる。

先ほどの患者さんのように、次の日に血液が流れ込んでしまうと逆に悪いことをしてしまう。ですから、梗塞が起こったらすぐに血栓を取り除いて血流を取り戻してあげることが大切です

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そこで、超急性期血栓回収療法で血栓を取り除いてあげる。そのひとつは、ペナンブラという吸引器を使って血栓を砕きながら吸い取っていく。はっきり言えば掃除機です。掃除機をかけて血栓をきれいに吸い取ってしまいます。

もうひとつはステントリトリバーといいます。血管の中にカテーテルを入れ、血栓のところでカテーテル内からステントを開いて血栓に絡めて回収する方法で、簡単に言えば熊手のような働きをします。

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 2-3 84歳の男性の場合

ご家族が症状に気づいたのは午前9時30分頃でした。様子を見ていましたが全く話せない状態なので1時間後に救急車を呼んで救急搬送しました。

2017年某日9時30分頃 発症

  9:30頃 発症 

 10:33  当院救急搬送
        NIHSS=22/42 右片麻痺(上下肢1/5)、全失語、心臓細動(+)

 10:43  MRI、MRA検査で左中大脳動脈閉塞 DWI ASPECT=7/11
        血液検査 PT-INR=1.03 Cre=1.43、BS=123

 10:55  t-PA静注開始

 11:05  DSA 穿刺開始

 11:30  再開通確認

      ※ 発症~再開通まで2時間  搬入から再開通まで57分

t-PAはご存知のことと思いますが血の塊を溶かす薬で、これを点滴をしながらペナンブラとステントリトリバーを使って再貫通させました。

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下は治療後のMRI脳の写真で、治療前は広い範囲が白くなっていますが治療後は白い部分が減っています。治療前は体の右側が高度の麻痺状態(4/5)で言葉を話すことができませんが、治療後は体の右側に軽度の麻痺状態(1/5)が残りましたが言葉を話せるようになり、一か月後に症状がない状態で退院されましたました

発生から2時間、病院へ到着してから57分という短時間で治療ができましたが、このように短時間で治療ができればほぼ元の状態に戻れるようになります。再開通が30分遅れるごとに自立生活が10%~14%減少しています

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血栓回収療法における今後の課題は、再開通率の向上と再開通までの時間の短縮です。院内での経過時間は院内体制の整備で努力してきました、病院まで来る時間の短縮が最も必要なことです。そして、安全確実な再発予防を行います。

心房細動の治療には脳塞栓予防のための薬物療法として、新規抗凝固薬(DOAC)のワルファリンをご存知の方も多いと思います。この薬を飲んでいる人は食事制限があり、納豆を食べられなくなり、青汁を飲めなくなります。

しかも、至適血中濃度ヘのコントロールが難しいうえに頭蓋内出血が多いという弊害があります。このような症状は白人に比べてアジア人に多く、特に日本人に多くみられ、出血性合併症を危惧して低容量でのコントロールとなり、有効な抗血栓効果が保てません。

最近新しく出た抗凝固薬は納を食べれますが、凝固開始期には影響しませんがピーク時のみ凝固亢進を阻害します。頭蓋内出血が多く、小血腫に制御されやすいことが分かっています。血腫が小さいままで治まってくれることはすばらしいのですが、値段が高いという問題があります。

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3 脳梗塞の予防

 3-1 日常生活での注意点

脳梗塞を予防するうえで日常生活で気を付けることは、

① 水分を上手にとるこ
    水分が不足すると血液が固まりやすくなります。

② 毎日の運動を心掛ける
    軽い運動は脳や脂肪の代謝を円滑にします。

③ タバコを止める
    喫煙は血管を収縮させ、動脈硬化を悪くします。

脳梗塞患者は複数のリスクを合併している可能性が高いのです。ですからこれらの危険因子をコントロールすることが大切です。

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 3-2 脳塞栓は治せる時代

心原性脳塞栓症を伴う脳塞栓は治せる時代になりました

 転帰のためには

  いかに早く治療するかにあり、

   可能な限り早く急性期治療可能な病院に行くことが重要です。

したがって、普段からの情報収集が大切です。

〇 これからは再発予防のため、しかりした後療法が必要で、脳外科医と循環器内科医
  とのコラボレーションが重要です。

〇 今後、脳塞栓症の原因となる心房細動に対し、根治が得られる可能性がある心臓カ
  テーテル医療のさらなる普及が期待されます。

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謝辞:文中に掲載した写真は、プロジェクターで投影されたものとレジメを撮影して掲載しました。ありがとうございます。