はげちゃんの世界

人々の役に立とうと夢をいだき、夢を追いかけてきた日々

第1章 まちづくりの基本概念

2009(平成21)年3月1日、ホテルニューオータニ札幌で開催された建装工業株式会社主催の第2回マンションセミナーで、高崎健康福祉大学院の松本恭次教授の講演「人口減少社会におけるマンション居住の将来像」より「まちづくりの基本概念」の要約。

1 まちが崩壊している

我が国は人口減少社会の入口に立っています。大都市圏の人口はしばらく増加する見込みですが、地方都市では人口流出で都市の存在さえ危ぶまれています。予想されている人口変動は、まちの存続や共同住宅(マンション)のあり方、個々人の住まい方やコミュニティの質をも変える可能性が高いのです。

人口の自然増や自然減は、出生数・死亡数・寿命・病気などに影響されます。社会変動による増減は、転入・転出・結婚・就職などに影響され、近年は複雑な事情が増加しています。世帯数・世帯構成数・家族分解・単身者数・子どもなし世帯・別居世帯・晩婚化・永久未婚層の急増・離婚・死別など、これらの指標は住居の需給に強く影響しています。

産業構造の変化に伴い製造業の誘致が郊外開発を活発化させ、離農を促進させて郊外の専業農家は絶滅危惧種になりつつあります。群馬県は田んぼに企業を誘致したので、都市から車での通勤者が増加して一人1台という全国一のマイカー保有率となっています。

郊外へのマイカー通勤者が増加し、郊外に建てらたイオンのような大型店舗は広大な駐車場を有しています。貧しい人々が自家用車で買い物に出かけ、車の増加が地域を倒壊へ導いています。マイカー目当ての大型店舗が郊外へ進出した結果、中心街はシャッター通りと化したのです。マンションの写真

左のマンションは、高崎市のもっとも中心地に建っています。88戸が入居できるマンションですが、駐車場がないため入居しているのは33戸です。群馬県では建物が老朽化して空室化するのではなく、空室化が先行して建物の老朽化が進んでいます。このマンションの玄関前は中心街の通りですが、人の歩く姿は見当たりません。

大型店舗で1,000人の人々が働いていますが正規職員は100人、ほとんどがパート職員で企業の利益は東京へ運ばれ、地方には還元されていないのです。郊外への企業誘致はマイカー通勤者を増加させ、地方都市は衰退してゴーストタウン化していくのです。

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2 住居の現状

分譲マンション550万戸のうち三割程度は、民営の借家に移行していると推測されます。群馬県の場合は空き家+借家は4割~4.5割になっています。

東京大都市圏の持家共同住宅は、近年になるほど床面積は100平方メートル以上に増加しています。1961~1970年代に建設された住宅は59平方メートル以下の小規模住宅が6割存在したのに対して、直近では1割にも満たない状態です。

1980年以降は床面積拡大の気配が鈍りはじめ、間借りや1室賃貸を経験しない単身者がワンルームマンション需要者の中心的存在となりました。東京から40~50kmを境にして、遠隔地は床面積が小規模化する気配を示しています。半地下・低い天井・西向き・東向きでも借り手がいるので投資効率は良いのですが、製造業誘致にまい進した地方で低水準マンションの空室率は高く、将来はなお空室化が進むと予想されます。人口変化の参考図表

地方都市は一極集中化が進んでいます。札幌・仙台・広島・岡山・熊本・長崎・鹿児島などが巨大化し、周辺都市は衰退の一途をたどり始めて若年層は半減しました。
 中心商業地の札幌市中央区でマンションの21.3%が空き家、最高は北見市のマンションで39.2%のマンションが空き家となっています。

分譲でもワンルームマンションの空き家化が進行し、空き家率が倍になったときにはマンションとしての存続が危ぶまれる事態となります。中心商業地は空洞化で借家人も脱出することが多く、半数以上の住戸が空き家化してスラム化の進行が早まります。

山梨県では非木造共同住宅の38.5%が空き家となっています。非木造+集合+高層化+巨大+区分所有の条件が重なるほど、建物の滅失や建て替えの柔軟性が失われて空き家化が進行しているのです。

人口増加時代の管理組合はマンションの修繕だけを考えていればよかったのですが、人口減少時代に入るとマンションだけが健全ではいられなくなります。資産を持ち続けることが大切なのではなく、永久私有財産を廃して一定の期間が経過したらマンションは公共財産にすべきでしょう。ローマの古代遺跡が残っているのは、100万の人口が65万人に減少したので住宅を建てるための遺跡破壊が止まったのです。

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3 将来の予測

65歳以上の高齢者が増加し、バリア(階段などの障害物)が多い住居は価格が低下します。生産年齢人口の急激な減少で住宅需要は低下し、中古住宅の需要も激減して空き家が増加します。

高齢者の施設入所需要には応じられず、訪問看護回数も激減して介護難民が増加するでしょう。中小企業の社員は高齢者が主体となり、高等教育機関は定員割れが進行して整理統合が必要になります。大企業は安い労働力を求めて海外へ進出し、介護サービスを外国人やロボットに委ねられます。

マンションのコミュニティー活動は崩壊して危機管理能力も低下し、修繕体制が崩壊して修繕意欲が減少し、修繕の先送りが続いて荒廃が進み、限界マンションが蓄積されていきます。複合型マンションではスラム化が起きるでしょう。

ほとんどが閉鎖されている郵便受け地域の空き家や空き住宅、空き店舗や空ビルが増加し、大型店舗の倒産と競売不調などで中心市街地はゴーストタウン化してゆきます。現在の群馬県では、マンション併設の店舗や事務所の半数は空き室となり、面積では八割が使われていない状態です。

明るいことはひとつもないと考えます。明るい未来を創り上げるためにはどうすべきか、現実を踏まえて考えることが大切です。(右上の写真は、札幌市・函館市・小樽市・夕張市の人口変化です。)

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4 ニーズの変化に対応

地域にまったく需要が見込めない場合は建物の撤去が必要となりますが、特定者が経営する賃貸目的の住宅は可能性があっても、分譲住宅は簡単にはいきません。環境さえ整えば、マンションは高齢者向きの過ごしやすい安全安心の住居となることを認識して有効に活用を図るべきでしょう。

桜上水団地は、一軒で二戸の使用や地域内住み替えを促進するため、管理組合に希望登録をする制度をつくって居住者の便宜を図っています。花見川団地の管理組合などでは、宿泊室・会議室・別宅用に長期賃貸しを行い、書斎・仕事部屋・倉庫・呼び寄せ老人住宅などに活用しています。

マンションを福祉施設に模様替えすることで、新たな需要と雇用を生み出した例もあります。前橋市内の高層賃貸マンションでは、ワンフロアをグループホームに改造して賃貸居住者も運営に協力しています。

設備部分のみを増設する方法もありますが、貸すにも貸せないほど傷んでいる場合は空き家化しやすく、建て替え運動が生じると空き家は増加しています。マンションの空き家を放置せずに活用を図ることが重要で、2戸1化という方法もあります。

分譲住宅でも離れた2戸を使用するなら建物に特段の改造を加えなくても可能です。隣の住居または同一階の住居を借用するには普段のコミュニケーションが必要で、限られた期間を借用するのは自由です。管理費や修繕積立金が二倍になるのがネックです。

資産価値を保全するために修繕をするという考えを改め、価格が低下した住宅でいまさら資産価値を強調するより、住み続けるためには快適や安全安心確保のために修繕を行うという発想に切り替えることが必要です。

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5 協力者を育てる

中高年になるほど転居の際の移動距離が小さく、学齢期に達した子どもがいる場合は学区を変えない範囲での転居先が好まれます。団地内に複数の住宅型があると近隣住み替えが生じ、3組が転居しても空き家が1戸しか生まれないということがあります。

同一型の住宅の場合は、転居希望者の分だけ中古の空き家が発生します。中層の5階から1階へ、小規模から大規模住宅へ、階段室型住宅からエレベーター付き住棟へ、高層からタウンハウス型へなど、多様な選択ができれば外部からの転入者や外部への転出者を減らすことも可能です。

持家ばかりでなく、賃貸住宅もあると親族近居に使えます。高齢で転居しても通院が不便になることや友人と縁が切れることもなく、新築を購入するより安価であることから内部リフォームが可能になります。

ただ多様なだけでは団地内の住み替えチャンスを逃すため、管理組合が積極的に住民に便宜を図ることが必要ですが、いくら優秀な理事が生まれても弱点として継続性が担保できません。現在は元気なコミュニティーが将来も元気な保証はなく、コミュニティーの活力にも波が生じます。

群馬県の各市とも行政による対策はなく、管理組合も力不足です。民間のことに介入しないのが自治体の姿勢ですが、このような状態ではマンションのスラム化、空き家化を避けきれません。管理組合を育てることにさしてお金はかからず、事後処理を多くすればかえって不経済です。

管理組合の協議会を作り、専門家による経営診断、建物診断、法律相談、入札などを勧めて費用の適正化を図ります。管理組合の役員が専門家になるのではなく、専門家を上手に使うことが得策です。頼るのではなく、良心的な専門家や業者に育てる意識が重要です。

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6 基本概念の転換

6-1 住居法と住宅監視制度

わが国では住宅がどのように不良化しても、住宅の将来を所有者の判断に委ねる仕組みになっています。このため道内市町村の空き家が廃屋と化して積雪で倒壊し、行政も対策を講じることができず近隣の住人に迷惑をかける事態が生じています。

木造戸建て・長屋建て・木賃アパートが中心であった時代は、特段に行政の介入がなくても終末処理は可能でした。しかし、非木造・共同・高層・区分所有・大規模になると、個人や企業のみで終末処理を行うことは困難になります。現在は非木造共同住宅が都市住宅の中核になりつつあり、今後終末処理が社会的課題となる可能性が高まっています。

日本には建設の法律があっても居住の法律がないので、住居法制定と住宅監視制度を設けるべきです。障がい者などが地域で普通の生活を営むことを当然とする福祉の基本的な考え方も計画段階で含めた居住の最低基準を設け、不良化した住居を所有者が改善できない場合は、改善勧告や閉鎖命令などができる仕組みが必要です。現在はこれがないため、建築の自由が将来都市の不自由になる恐れが高まっています。

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6-2 自転車利用の促進

パリ市の人口は217万人で面積は105,4平方km、人口密度は20,348人/平方kmで高層住宅を建てません。札幌市の人口は190万人で人口密度は1,693人/平方km、人口密度最高の白石区で5,877人/平方kmです。パリの人口密度にすれば札幌市は中央区ふたつで充分といえます。

パリでは2007年9月から自転車乗り放題の貸し出し方式を始めました。駐輪場は市内に1,451ヶ所26千台分を確保し、30分以内の利用に限定して駐輪場から駐輪場へつなげば何回でも利用できる方式です。年間契約は29ユーロ(4千円)で1日の契約は1ユーロ、7日の契約は5ユーロときわめて安上がりです。

中心市街地で居住者が激減する理由は駐車場不足が大きな原因です。中心となる市街地に居住者を定着させるために、先進国では様々な自転車への取り組みが行われています。自転車の利用を促進して電動自転車を利用できれば距離も伸びます。雨・風・交通安全・駐輪・専用自転車道路対策ができれば効果が上がります。

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6-3 できることから

我が国の都市計画は最小限の規制で自由な開発を承認しているため、都市計画と住宅政策は一体化せず都市は私空間の集合となって公共空間としての統合性がありません。自己主張する建物が連続して都市としての景観統一が忘れられ、全国の街を醜悪な風景にしてしまいました。

車に頼らない街づくりはヨーロッパの先進国では当たり前の目標になりつつあります。都市の拡大は無駄な行政コストを膨らませ、民生・福祉・教育費を圧迫していることから日本もコンパクトシティ化を目指すことが最善でしょう。

イギリスではサッチャー政権が地方分権を推進し、地方行政はさらに住民に多くの権限をゆだねました。街づくりは「住民参加」ではなく「住民主体」が強調され、公共住宅の修繕事業や入退去業務も住民組織にゆだねられました。不良住宅地区の改善事業なども、最初に行政が行う作業はマスタープランづくりではなく住民の輪をつくることでした。松本教授の写真

住民は最初から知識や経験があるわけではないので、手分けして様々な調査や分析を行いながら学習を重ねていきます。定年退職した多数の公務員が住民のワークショップに加わり、NPO団体や専門家を招いて講演を依頼する場合も多く、これらの必要経費は行政が負担しています。

老人や子ども、外国人などが当たり前のことのように参加し、計画を練っていく過程が地域再生となります。住民がプランを完成したときには、住民同士が顔見知りになるだけではなく多様な人間関係が築かれています。

東京都三鷹市は、市民主体の街づくりNPOが毎年市長に公開の場で街づくりの提言をしています。勉強のために講演会を何度も開催していますが、その費用は三鷹市が負担しています。会場の設定や聴講者募集、受付や運営などのすべては市民が行い、提言内容が実現した事例も増加しています。

三鷹市のようにできない地域がほとんどですし、町内会やマンション管理組合の活動は役員や理事が代われば継続性が途切れるという弱点があります。理想を夢見て待つのではなく、問題意識を共有できる高齢者が声を掛け合い、互いに助け合えるよう交流の機会を設けることから始めましょう

謝辞:文中に掲載した写真は、プロジェクターで投影されたものを撮影して転載しました。ありがとうございます。

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